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    2008.02.23 Saturday 20:28

    しゃぼん玉/乃南アサ

    • Author : R
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      引ったくり、コンビニ強盗などの悪事を繰り返す青年。
      流れ流れて行き着いた宮崎県の山村。
      何も聞かずに受け入れてくれる老婆との暮らした数週間が、彼の人生を変える、再生の物語。


      簡単に書いてしまえば、こういう筋書き。

      荒れた家庭で育ち、親にも見離され、自暴自棄になった青年。
      寄る辺ない身の上、しゃぼん玉のように漂い続ける人生。
      現実感もなく、漫然とただ、心臓を止めないためだけに盗みを働き、食べ、寝るだけの毎日。

      そんな中、ひょんなことから山深い村で、人々とふれあうようになり、人の温かさに触れ、己を振り返る。
      コレだけだと、なんとなくよくある泣かせ系の小説のように感じてしまうかもしれない。

      ただこの小説が違うのは、青年が最後まで葛藤を続けること。
      「自分は変われるだろうか―。」

      逃げようとする自分、やり直そうとする自分とのせめぎあい。
      このまま、ばあちゃんを殺して、お金を奪って逃げてしまおうか。
      逃げてばかりの人生。
      そんな折に現れる、「おスマじょう」のろくでなしの末息子。

      その男に父を重ね、初めて自分の「本心」をぶちまける。
      萎縮してしまっていえなかった言葉、はむかえなかった自分。
      母親に「父親にそっくり」となじられ、そうと信じてしまっていた自分。
      自分もあのようになってしまうのだろうか。
      いや、なりたくない。
      でも…。

      「どうしてなのか、自分でも分からなかった。本当に、最初は張り切っているのだ。今度こそ続けよう、続けられそうだと、心の底から思うのだ。それなのに翌朝になると、もう気分が変わっている。すべてが馬鹿馬鹿しくて、面倒くさくて、何をやってもうまくいかないような気がしてしまう。その結果、翔人は何もかも放り出してきた」

      何事も長続きしない人というのは、世の中にはいる。
      私は営業時代、クライアントからこういった話を良く耳にしていた。
      「明るく、はきはきしていい子だと思っていたら、翌日からもう来なくなった」とか、「面接の時にはすごく感じが良くて良いな、と思っていたら当日直前でキャンセルだよ」とか。

      コレに類することだろうと思う。
      正直、私にはこの行動は理解できない。
      嫌なら嫌で百歩譲って良いとして、やめるならやめるで然るべき手続きがあるわけだし、そもそも責任感はどこにいったのだ?と思ってしまう。
      自分の都合だけで生きてしまっている。周りが見えていない。

      ただ、朝になったら気分が萎えている、というのは理解できなくもない。
      特に大きなことをやる時とかね。

      つまり、逃げ出したくなるということ。
      でも、そこで踏みとどまって、エイヤッ!と行くのが大多数の人なわけで。
      コレが出来ない人は確かに存在する。

      ただ、この小説でも言及されているように、「誰か」という心の支柱があると意外に人は、何とかなるものである。大体の場合、それが親だったり、兄弟だったり、恋人だったり、仕事の場合だと、ケツを持ってくれる(失礼!)上司だったり、同じ目標をもった仲間だったりと、無条件に愛情や信頼をくれる身近な人になるわけだが、翔人のそれまでの人生には文字通り存在しなかった。

      それが、この村で初めて彼を信頼し愛情を注いでくれる存在に出会う。それが、「おスマじょう」であり、シゲ爺であり、頼りにしてくれる村の人々になるわけである。

      そして、初恋。
      それまで、女性は忌むべき存在に近かった翔人が出会った女性。
      それは、因果応報的な存在。

      人は他人によって自分という存在を自覚する、って誰がいったんだっけかな?
      要は周りにいる人間が自分という存在を認めてくれた時、自分という存在を意識するということです。

      それまで、一人で友達も恋人もなく生きていた翔人は、村の人々によってその存在を認められ、自分という存在の価値を見出したのである。

      「ぼうはいい子」と頭をなでられ、嫌がるふりをしながらこそばゆく感じている翔人。
      初めて愛情に触れ、「おスマじょう」に疑われた時、初めて自分を主張する。
      「そんな風に思っていたのか―」

      信じてくれているという信じていたものに裏切られた気分。拒絶。
      人間関係において、これを突きつけられることは、多くはないがある。
      でも、そんな絶望を味わいながらも、翔人は、おスマじょうを守ろうとする。
      間違いなく、翔人の心は成長している。

      そして、シゲ爺に背中を押してもらい過去を清算する旅に出る。
      伊豆見翔人として、本当の自分を村人に受け入れてもらい、初恋の女性にも受け入れてもらえるように。
      この村は、翔人の帰る場所、故郷になる。

      帰る場所のある人間は、強くなれる。
      ただ、漫然とある帰る場所ではダメなんですよね。
      自らが決めた「帰る場所」である必要がある。
      ただの故郷、実家では、おスマじょうの末息子のように、「甘え」の存在でしかなくなる場合がある。

      自ら作り出す、帰る場所。
      コレが大事なんです。
      親は間違いなく先に死ぬし、兄弟には兄弟の生活がある。
      だから、みんな自分の家庭を作るんだよね。
      人は一人じゃいられない。
      私も人のこと言ってる場合じゃないな(笑)

      再生の物語というよりは、成長の物語かな。
      解説にもあったけれども、プロットの細かさに驚嘆しますね。
      心が温かくなるお話。心に寒さを抱えている人はぜひ。

      JUGEMテーマ:読書



      2017.03.23 Thursday 20:28

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        Comment:
        2008/11/26 11:13 AM, いもこ wrote:
        はじめまして。
        私は再生の物語,と思いながら読んだのですが,言われてみれば,確かに成長の物語ですね!
        翔人の乾ききった全身に,じいちゃにゃばあちゃんたちの温かさがしみこんでいく様にはゆるゆるとした感動を覚えました。

        トラックバックさせていただきたいのですが,よろしいでしょうか?
        2008/11/30 12:30 AM, R wrote:
        コメント&TBありがとうございます!
        乃南さんの作品は、すごく好きってわけでもないのですが、何故か結構読んでます。
        私は、『凍える牙』で興味を持った口です。
        今は、シリーズ化されていて、このシリーズは必ず読んでます。
        ま、文庫化されてからですが(笑)
        色んな作品を書かれている方なので、ぜひ色々読んでみてください。
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        http://random-talk.jugem.jp/trackback/480
        『しゃぼん玉』 / Pesciのブログ
        2008/12/21 1:45 AM
        Baby BooのCherryさんがおすすめ本として挙げていたので、手に取ってみました(*^_^*) 舞台となる村が、ちょっと自分の地元に近いので(私の地元以上に父の田舎のほうが近かったり)、方言の感じとか空気を感じやすかった。おまけに、私自身がド田舎出身なので、村の
        2008/11/26 11:14 AM
        ひたすら苦手にしていた作家さん。 どんな作品だったのか内容は覚えていないのだけど、『凍える牙』が苦手だったということだけを鮮明に覚え...
         
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